欧米ゴースト映画10選 · 心理怪談映画 · 想像力が完成させる幽霊屋敷 · 1963

『たたり』、見えない館が心を迎えにくる

ロバート・ワイズの1963年版『たたり』を、館の歪んだ空間、壁越しの音、姿を見せない幽霊の演出から読み直す。静かな恐怖が帰る場所の感覚まで揺さぶる。

『たたり』は、幽霊を見せる映画ではなく、家そのものを見てしまう映画だ。ロバート・ワイズ監督による1963年の『The Haunting』は、超常現象を調べる一行がニューイングランドの古い館に集まるところから始まる。日本では『たたり』の題で同年8月25日に初公開された。[3] けれども、作品の中心にあるのは調査の成果ではない。入口から伸びる坂、閉じた窓、奥行きを失った廊下が、人物の感覚を少しずつ組み替えていく過程である。BFIが記すように、これはワイズが監督・製作を担い、ジュリー・ハリスらが出演した1963年版だ。[1] 後年の色鮮やかなリメイクとは違い、本作は空白を恐怖の材料にする。

館の形がつくる不安

画面に映るヒル・ハウスは、単に古いだけの建物ではない。外観は丘の上で周囲を押さえ込み、内部は装飾や鏡、似た扉が視線の行き先を奪う。Library of Americaの批評が述べる通り、撮影は斜めの構図や背景のずれを使い、人物の立つ場所を安定させない。[2] 廊下は先へ進む通路なのに、同じ扉が並ぶことで戻れない迷路になる。部屋の家具や壁紙も生活の温かさを示すより、そこに長く残った時間を押しつけてくる。ワイズは大きなセットを見せびらかさず、人物の肩越しに角を置き、フレームの外側へ不安を逃がす。だから観客は「何があるか」より、「なぜこの角度で見せられているのか」を気にし続ける。

音の設計は、映像が隠したものを説明するのではなく、隠したまま近づける。扉を叩く重い響き、壁の向こうを進むような足音、遠くの泣き声が、発生源のわからないまま部屋を満たす。見える怪異なら画面の中に位置を置けるが、音は壁や天井を越え、観客のいる側まで空間を広げる。特に人物が同じ部屋で眠ろうとする場面では、会話の切れ目と呼吸の間が長くなり、静けさそのものが出来事になる。音楽も感情を先回りして煽るより、建物の低い唸りに近い働きをする。ワイズが師と仰いだヴァル・リュートン流の示唆の演出について、批評は「見せない」ことの強さを指摘している。[2] その節度が、耳を画面外へ向けさせる。

物語の進み方も、謎を順に解く推理劇とは異なる。研究者が館の過去を語り、参加者が異変を報告しても、情報は安心できる全体像へまとまらない。新しい事実が増えるほど、人物の判断は私的な記憶や孤独に引き戻される。ジュリー・ハリスのエレノアは、恐怖をただ耐える人ではなく、館の中に自分の居場所を感じてしまう人として揺れる。その揺れを、映画は説明台詞で整理しない。前半の会話と観察は比較的ゆっくり進み、夜の出来事が重なるたび編集の間隔が短くなる。それでも急に派手な見せ場へ飛ばず、同じ階段や同じ扉を別の心理で見せ直す。観客が待っているのは答えだけではなく、次に自分の知覚が裏切られる瞬間なのだ。

幽霊は姿よりも関係に宿る

本作の幽霊表現が古びないのは、怪物の造形を完成させないからだ。館が意思を持つのか、そこにいる人が過去を呼び寄せるのか、画面は一つの説明に閉じない。見えない手や曲がる扉のような現象があっても、それは特殊効果の展示ではなく、人と空間の関係が変質した印として現れる。Library of Americaも、誰が歩いているのかを確定させない点に、この作品の不気味さを見ている。[2] テオドラの軽やかな距離感、マークウェイの理性的な態度、ルークの半信半疑は、同じ音や暗がりを別々の意味に変える。だから恐怖は外から襲う力だけではない。誰かを必要とする気持ちや、帰る場所を失う不安まで、館の側に利用されているように感じられる。

『たたり』が1963年のゴースト映画として重要なのは、特撮の量ではなく、観客の想像力を演出の一部にした点にある。日本の作品情報でも、原題は『The Haunting』、監督・製作はワイズ、原作はシャーリイ・ジャクスンと確認できる。[3] その背景を踏まえても、映画は文学の挿絵にはならない。白黒の画面、傾いたカメラ、音のない待ち時間が、館を心理の比喩に固定せず、現実に触れる場所として保つからだ。恐怖の正体を決めてしまえば、観客は安全な距離へ退ける。本作は最後までその距離を与えない。扉の向こうを見せないまま、見る側の心だけをそこへ置き去りにする。静かなのに逃げ道がなく、古典なのに鑑賞者の知覚へ直接作用する。その余韻こそ、リメイクと取り違えず1963年版を選ぶ理由である。

参考資料

作品情報は以下の資料を参照しています。

  1. The Haunting (1963)
  2. Terror, suspense, and the power of suggestion in The Haunting - Library of America
  3. たたり 1963

10eKokoroが書いています

台湾出身で映画を愛するバリスタ、10eKokoroの映画ノートです。

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