日本の成人向け映画史20選 · 日活ロマンポルノ · 都市の孤独と再会を映す長回しと歌謡曲 · 1985

ネオンの夜に、時間はほどける

相米慎二が日活ロマンポルノの枠内で、長回し、歌謡曲、ネオンの都市景観を通じて、傷ついた男女の再会と再出発を描く。構図・音響・権力の視点から読む1985年作品論。

成人向けの題材を含む作品を扱う評論です。性的題材は映画史と映像表現の文脈から非露骨に論じています。

1985年8月3日に公開された『ラブホテル』は、相米慎二が日活で助監督を経験したのち、初めて手がけたロマンポルノである。製作をディレクターズ・カンパニーとにっかつ、配給をにっかつが担い、石井隆の脚本を相米の演出が受け止めた本作は、成人向け映画の制度と作家映画の形式が交差する場所に立つ。[2]しかし、その歴史的な面白さは、単に「異色作」と呼べることではない。既存の枠内で限られた時間と予算を引き受けながら、相米が人物の沈黙、距離、逡巡を映画の中心へ押し出した点にある。日活ロマンポルノという看板は、ここでは内容を規定する檻であると同時に、相米の映像感覚を試す実験場にもなっている。[1]

都市の夜に残る時間

物語の核にいるのは、石井隆が生み出した名美と村木を演じる速水典子と寺田農である。会社の倒産と借金を背負った村木、夜の街で働く名美は、最初から幸福な恋愛の入口に立ってはいない。二人の再会は、過去を清算して新しい関係へ進むための便利な装置ではなく、時間が経っても消えない傷が別の形で戻ってくる出来事として置かれる。[2]相米の演出は再会の場面に、気まずさ、警戒、言葉にならない記憶を滞留させる。だから本作の希望は、誰かが誰かを救い出すことではない。過去を所有し直そうとする力を退け、相手の沈黙を沈黙のまま受け止める時間をつくれるかどうかにかかっている。[1]

映像はタイトルが予告するホテルの閉じた空間だけに留まらず、ネオンがにじむ都市の夜へ人物を押し出す。Japan Societyが指摘する「ネオンがきらめく都市景観」は、都会的な華やかさというより、誰も完全には眠れない社会の表面として機能する。[3]相米の長回しは、感情を細かな編集で説明せず、俳優の動きと距離の変化を同じ時間のなかで見せる。画面の端に残る空間、遅れて届く視線、出入り口や車内の境界は、二人が近づくことと逃げることを同時に可能にする。観客は決定的な表情だけを読むのではなく、ためらいがほどけたり、ふたたび閉じたりする過程を見届ける。ホテル、タクシー、街路は背景ではなく、親密さを商品や移動の制度へ接続する構図として立ち上がる。[1]

音楽もまた、画面に感情を貼り付ける装飾ではない。作品解説が強調する歌謡曲の効果、そしてJapan Societyが挙げる山口百恵の歌声は、人物の内面を代弁しながら、同時にその内面を簡単には回収しない。[1][3]歌が流れると、ホテルの私的な時間と、ネオン、道路、タクシーのような公共の時間が重なり、二人の感情は閉じた告白ではなく都市の騒音にさらされる。甘美な旋律は救済を約束するのではなく、過去の負債と現在の選択が同じ場所にあることを思い出させる。台詞の間に残る沈黙や、音が場面を先回りしてしまう瞬間に、相米の演出は感情の説明を拒む。音響は恋愛を美化するより、言葉にできないものが社会のなかでどう反響するかを測る装置になる。

再会をめぐる権力と倫理

権力の問題は、物語の外側から付け足された主題ではない。村木の負債、名美の仕事、金銭を媒介にした出会い、そして男が女を「天使」と呼ぶ言葉は、親密さの背後にある所有と命名の力を露呈する。[2]「天使」という呼び名は相手を高く掲げるようでいて、相手の複雑さを一つのイメージに閉じ込める危うさも持つ。本作を単純な贖罪の恋愛として読むなら、過去の暴力や経済的な非対称性が、情緒のなかへ消えてしまう。しかし相米の長い視線は、二人を傷のない対等な存在へ急いで変換しない。傷つける側と傷つけられた側、見る側と見られる側の位置が揺れ続けるからこそ、再会は和解の完成ではなく、関係を結び直すことの困難を示す。[1]成人向け映画の枠を批判的に読み替えるとき、ここに現れるのは刺激ではなく、誰が他者の人生を語り、誰がその語りを拒めるのかという倫理である。

終盤をワンカットで捉える選択は、編集によって感情の答えを確定させず、二人の未来を観客の時間へ開く。[1]長く続く画面のなかで、出来事は劇的な解決へ跳躍するより、歩くこと、待つこと、同じ場所に立ち続けることの重さを帯びる。そこでは「再出発」は宣言ではなく、過去を消去しないまま、相手をもう一度見ようとする小さな選択として現れる。『ラブホテル』は、日活ロマンポルノの商業的な器を借りながら、構図、長回し、歌謡曲、都市の音を組み合わせ、人間を分類する視線そのものを映し返す。相米慎二の映画史において本作が特別なのは、成人向けジャンルへ一時的に寄り道したからではない。ジャンルの条件を引き受け、その条件が生む欲望、負債、沈黙を、映像の持続によって考え直したからである.

参考資料

作品情報は以下の資料を参照しています。

  1. 『ラブホテル』 Love Hotel:特集上映「相米慎二のすべて ~1980-2001全作品上映~」 : TOKYO FILMeX 2011 / 第12回東京フィルメックス
  2. ラブホテル | 映画 | 日活
  3. Love Hotel

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台湾出身で映画を愛するバリスタ、10eKokoroの映画ノートです。

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