日本の成人向け映画史20選 · 大映文芸映画(成人向け芸術映画) · 刺青、変身、女性の主体性と権力の反転 · 1966

黒い蜘蛛の視線――増村保造『刺青』論

谷崎潤一郎原作、増村保造監督の『刺青』(1966)を、宮川一夫の構図、鏑木創の音響、若尾文子の演技、女性の主体性と大映文芸映画の文脈から読み解く非露骨な映画評論。

成人向けの題材を含む作品を扱う評論です。性的題材は映画史と映像表現の文脈から非露骨に論じています。

『刺青』は、一九六六年一月十五日に日本で初公開された、増村保造監督・大映製作の八十六分の文芸映画である。[1]谷崎潤一郎の原作を新藤兼人が脚色し、若尾文子をお艶に据えた本作は、逃走と裏切りを連ねる時代劇でありながら、女の運命を男の道徳で裁く物語を反転させる。画面の入口でお艶の名と身体は他者の所有物として扱われようとするが、映画はそれを宿命の美談にせず、支配が人を作り替える手続きとして見せる。ゆえに、妖しい古典趣味の衣をまといながら、中心にあるのは「誰が他人の人生を定義するのか」という近代的な問いである。

映像と音の蜘蛛の巣

構図の力は、物語の説明より先にこの問いを観客へ突きつける。国立映画アーカイブが記録するカラーの三十五ミリ作品、宮川一夫の撮影、横長画面の特性が、人物を背景から切り離すのではなく、襖、柱、格子、雪景色の線へと組み込んでいく。[2]室内では左右に伸びる空間が逃げ道を示すようでいて、同時に視線を閉じ込める。お艶の表情を大写しにして心理を説明するより、画面の端に置かれた男の手、通路の奥の待機、画面を横切る移動が、誰が誰を監視し、誰が交換されるのかを語る。美しい配置そのものが、所有の秩序を可視化するのである。

音もまた、情念を甘く飾る装飾ではない。国立映画アーカイブが記す鏑木創の音楽と大角正夫の録音は、静寂、足音、戸の開閉、室内に残る気配を際立たせ、人物が言葉にできない圧力を空間の厚みとして響かせる。[2]冒頭でお艶が拘束され、意思に反して刺青を施される出来事は、露悪的な見世物ではなく、同意を奪う権力の宣言として置かれる。[3]そこから物語は、駆け落ち、売買、改名、再会という節目を急ぎ足でつなぐ。編集の切り替えは「変身」の内面を説明せず、場と呼称が変わるたび、社会が一人の女性に別の役割を押しつける仕組みを露呈させる。

物語の重心が、お艶から染吉へ移る過程は、単純な被害から解放への直線ではない。彼女は自分を利用した船宿の主人や遊郭の管理者らの規則を読み取り、その言葉と欲望の隙間を逆に利用する。レビューが指摘するように、彼女は自分を搾取した地下社会の論理を学び、やがてそれを相手へ返していく存在になる。[3]しかし映画は、この反転を無垢な正義として祝福しない。お艶の強さは、他人を傷つける仕組みから完全に外へ出ることではなく、その仕組みを見抜き、演技し、主導権を奪う危うい知性として現れる。だから新助との再会も恋愛の回復ではなく、男が女を以前の位置へ戻そうとする最後の試みとして緊張を帯びる。

物語と権力の反転

刺青の歴史的な含意も、この権力の反転を厚くする。江戸の浮世絵や遊郭の文化に結びついた刺青は、無頼、労働、忠誠、犯罪の記号を横断してきた一方、近代国家の規範によって隠されるべきものにもされた。[3]本作がその印を女性の人格へ固定するのではなく、見る側の欲望と恐れを映す鏡として扱う点に、谷崎文学を映画へ移す大胆さがある。大映の文芸映画という制度的な枠の中で、増村は「美しい女」を鑑賞される対象に留めない。彼女を見ようとする男たちの視線こそを、滑稽で脆いものとして画面に戻し、戦後社会にも残る家父長的な所有意識を時代劇の衣装の下から浮かび上がらせる。

その意味で『刺青』は、文芸、女性映画、怪奇的なメロドラマが互いを侵食する場所に立つ。若尾文子の演技は、怒りや計算を大仰な台詞で説明するのではなく、姿勢の変化、返答の間、相手を先に読んだ視線で示す。画面の艶やかさは支配の暴力を消すためでなく、支配が美として流通する危険を観客に自覚させるために働く。増村保造を、女性の物語を扱う戦後日本映画の重要な作家として再発見する近年の評価が示すように、本作の大胆さは題材の刺激性だけではない。[3]『刺青』の過激さは、女性を神話化することではなく、女性を所有できるという男たちの神話を、構図と音と物語の速度で崩すところにある。その崩壊の余韻が、印の意味を一つに閉じず、観客自身の見方まで問い返してくる。

参考資料

作品情報は以下の資料を参照しています。

  1. 刺青
  2. 国立映画アーカイブ「刺青」所蔵映画フィルム詳細
  3. Irezumi

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台湾出身で映画を愛するバリスタ、10eKokoroの映画ノートです。

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